ヨーゼフ・クリップス シューマン 交響曲第1番 Op.38「春」

 ヨーゼフ・クリップスが1957年5月、ロンドン交響楽団を指揮したシューマン 交響曲第1番 Op.38「春」。この録音では、第1楽章の序奏を聴くと、シューマンの原典に従っている。

 第1楽章の序奏について、初演の際、メンデルスゾーンから冒頭部分を3度上げた方がいいと忠告された。多くの演奏では3度上げて演奏している。シューマンは、クラーラと結婚する前の1839年、ヴィーンに拠点を移そうとしたものの、失敗した。それでも、シューベルトの交響曲第8番 D.944「グレート」の自筆草稿をシューベルトの兄、フェルディナントから受け取り、ライプツィッヒでの初演にこぎつけた。シューマンの頭に「グレート」の序奏が残り、第1楽章の序奏にシューベルトへのオマージュとして冒頭部分に取り入れた。主部は春の喜びに満ちている。第2楽章。シューマンの歌の世界が広がっていく。たっぷりした歌心、抒情性に満ちている。第3楽章。春の戯れ。このスケルツォは、当初、トリオは1つだった。もう1つ、トリオを加え、2つとしたためか、活気に満ちている。コーダは余韻だろうか。第4楽章。春爛漫と言ったところか。そこに、暗い影麗が差す。クライスレリアーナ Op.16 第8曲の引用である。それを打ち消すような明るさがさす。展開部は第2主題中心となる。再現部への移行でのフルート・ソロ、春を告げるかのような鳥の鳴き声が聴こえる。第2主題の後に第1主題を挿入する手法は注目すべきだろう。コーダの盛り上がりも素晴らしい。

 クリップスは、シューマンの原典も活かしつつ、ドイツ・ロマン主義の息吹に満ちた演奏を利かせている。この演奏ももっと注目されてしかるべきだろう。