ルドルフ・ゼルキン モーツァルト ピアノ協奏曲 第27番 K.595

 ルドルフ・ゼルキンがクラウディオ・アバド、ロンドン交響楽団と共演したモーツァルト、ピアノ協奏曲、第27番、K.595。大家ならではの至高の芸が聴き取れる。

 第1楽章の暖かみ溢れるピアノの音色。豊かな低音の響き。モーツァルト最後のピアノ協奏曲に相応しい。豊かな歌。淡々と、たっぷり歌う。アバドも好サポートを見せる。カデンツァでのこれ見よがしにならない、味わい深さ。豊かな歌が湧き出て来る。第2楽章。ピアノの深い音色と歌心。深々と歌い上げている。それが、モーツァルト晩年の孤独感、寂寥感を際立たせている。オーケストラも深い歌を聴かせている。第3楽章。歌曲「春への憧れ」のもとになっているロンド主題の深々とした歌。軽やかな中にも味わいがある。カデンツァでも歌に満ちている。

 この録音は1983年、ゼルキン80歳記念だろうか。この8年後、1991年、88歳でこの世を去る。その後、アメリカ生まれ、アメリカ育ちのピーターが来日、現代作品、バッハ、ベートーヴェンを中心に私たち、日本の聴衆に名演を聴かせた。ピーターもすい臓がんのため、72歳で世を去ったことが惜しまれる。ピーターの場合、父ルドルフが重しだったかもしれないにせよ、現代音楽と対峙しつつ、自分の道を確立したことは大きいだろう。