ヴァルター・クリーン モーツァルト ピアノ協奏曲 第27番 K.595

 リリー・クラウス、イングリット・ヘブラーと共にモーツァルト弾きとして親しまれたヴァルター・クリーンが若杉弘、NHK交響楽団と共演したモーツァルト、ピアノ協奏曲、第27番、K.595。33年後の今でも輝きを放つモーツァルトである。

 1989年、クリーン最後の来日となった。この時、リサイタルがサントリーホール、ブルーローズで行われた。モーツアルト・プログラムもあったものの、これはクルト・マズア、ライプツィッヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団、ベートーヴェン・ツィクルスと重なって聴くことができず、モーツァルトを含むプログラムで聴いた。大変な名演だった。

 第1楽章から聴くと、モーツァルト最後のピアノ協奏曲ならではの寂寥感・孤独感が感じられる、澄んだ孤高の響きが素晴らしい。若杉もクリーンを盛り立て、素晴らしい響きを表出している。第2楽章の深い歌心と澄んだ音色。それが、モーツァルトの心境を映し出す。若杉が寄り添うように色を添える。第3楽章。ロンド主題が歌曲「春への憧れ」K.596になっていることでも有名である。無垢に歌いながら、寂寥感・孤独感を秘めている。また、澄み渡った響きが天国の響きともなっている。カデンツァで「春への憧れ」が入っていたことは興味深かった。オーケストラと共に締めくくる姿勢も見事だった。

 クリーンが日本で注目されるようになったのは、アメリカ、ヴォックスから出たモーツァルト、シューベルト、ブラームスの全集が日本のワーナー・パイオニアから発売されたことによる。この時、何度か、リサイタルを聴きに行った際、モーツァルト中心に聴いていた。アンコールも何でもござれで、素晴らしかった。しかし、ワーナー・パイオニアとの契約が切れたこと、CD中心となったことから、小ホールとなったことは気の毒だった。1991年、モーツァルト没後200年記念の来日公演が予定されていたものの、病に倒れ、実現しなかった。夫人は日本のピアニスト、小島ちず子で、ハノーファーに留学後、洗足学園で教鞭を取っていた。ちず子夫人から、クリーンの訃報が入ったという。知人の話によると、毎年届くクリスマスカードが届かなかったとのこと、どうしたことかと思っていた。その矢先だったにこの知らせだったというから、残念な人を失ったことは大きい。その意味でも貴重な記録である。