ディヌ・リパッティ ショパン バラード 第4番 Op.52

 夭折のピアニスト、ディヌ・リパッティの貴重な遺産の一つ、ショパン、バラード、第4番、Op.52。リパッティのショパンには、39歳でこの世を去ったショパンと自分の余命を重ね合わせた思いが聴き取れる。

 この作品は、4曲あるショパンのバラード、最高峰と言うべき作品。物悲しい第1主題、安らぎを与えるかのような第2主題。ポーランドの詩人、ミツキェヴィチ「3人の兄弟」に基づいたとされる。戦士として赴く3人の兄弟に、父親が無事に帰ってくるようにと言って、送り出す。父親はみんな戦死したかと思うものの、3人ともポーランドの娘たちを花嫁として連れ帰った。

 コンサートのライヴ録音とはいえ、深い歌心に満ち、ピアノの音色も深みがあり、たっぷりしている。高貴な気品に満ちている。内面からじわじわ湧き上がる音楽。ドラマトゥルギーの表出、その深さは見事である。白血病と戦いつつ、33年の短い生涯を閉じるまで、正面から音楽と真摯に向き合ったリパッティの姿は壮絶だった。ショパン演奏でも、リパッティの存在は貴重、かつ重要だろう。