サントリー音楽財団 サマーフェスティバル 第32回 芥川也寸志 サントリー作曲賞 選考演奏会

 サントリー音楽財団 サマーフェスティバルの重要コンサートの一つ、第32回 芥川也寸志 サントリー作曲賞 選考演奏会がサントリーホールで行われた。(27日 サントリーホール)

 このコンサートでは、この1年間に初演された日本人作曲家によるオーケストラ作品、3-4曲をノミネートし、3人の作曲家たちが選考委員となって、受賞作を選ぶ形式を取る。今回は若手作曲家、3人の作品が候補に挙がった。

 まず、2020年の受賞者、小野田健太、2台のピアノとオーケストラのための「綺羅星」で始まる。秋山友貴、山中淳史のピアノ、杉山洋一、新日本フィルハーモニー交響楽団が聴きごたえあった。杉山は、この演奏会を含め、20世紀音楽゛は定評ある。宇宙の神秘を描き出したもので、最後には第2ピアノによる鍵盤内部奏法を用いた終結が印象深い。

 候補曲、第1番。波立裕矢「失われたイノセンスを追う。Ⅱ」、ジャズ、マーラーの引用を用いた面白い作品。愛知県立芸術大学、東京芸術大学大学院出身。第89回日本音楽コンクール、第1位。

 第2番。根岸浩輔「雲隠れにし、夜半の月影」、紫式部の和歌を基にした作品。

 

   巡り逢いて 見しやそれとも わかぬまに 雲隠れにし 夜半の月かな

 

紫式部は藤原宣孝と結婚、僅か2年の結婚生活で宣孝に先立たれ、幼い一人娘、賢子を抱え、一条天皇の中宮、彰子に仕える傍ら、世界最長の小説「源氏物語」を遺した。2024年、NHK大河ドラマ「光る君へ」は式部の生涯を描く作品、背景となった藤原道長の権勢も中心となる。

 紫式部が宣孝との短い結婚生活を振り返りつつ詠んだ歌の思いを見事に表現した作品。日本大学、大学院出身。第31回朝日作曲賞、2021年武満徹作曲賞受賞。

 第3番。大畑眞「ジンク」、宮城県登米市出身の大畑は、2011年3月11日に起った東日本大震災で大きな被害を被った東北の大地への思いを込めた。東北の復興は進んでいないとはいえ、東北の人々への応援歌としての意味は大きい。東京芸術大学、大学院在学中。

 今回は、波立が受賞となったものの、大畑も受賞できたはずである。大震災で大きな被害を受けた東北への応援歌として作曲した作品なら、受賞可能だった。1991年の第3回では2人受賞していることを考えると、優れた作品が2曲あるなら、2人受賞してもよいはずだろう。2018年は4曲ノミネートとなり、2曲受賞しても当然だったはずである。その点でも不満が出ていた。1人受賞はこの際、考えてはいかがだろうか。

 

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コメント: 2
  • #1

    柳原健児 (金曜日, 02 9月 2022 00:13)

    透明性のあるご報告に、感謝いたします。いつも、なぜ、誰々が選ばれたのだろうか、と思うことありますが、このように、経過報告を頂くと、なるほど、と理解できます。音楽は、作曲家に与えられた賜物が、その時咲くので、音楽の場合特にわかり難い。咲くとき、ちゃんとサントリーがその方の香りをキャッチしてくださる過程を、教えていただき、改めて感謝いたします。

  • #2

    浩三 芝崎46303 (木曜日, 15 9月 2022 02:46)

    私が高校一年の時、名古屋フィルハーモニー交響楽団に「工事現場からコワい現場監督」が来ました。外山雄三先生ですよ。ホントにこわかったですよ。リハーサルはかのトスカー二―そっくりですよ!イヤ、クレンペラ―そっくり!しかし、だからこそ名古屋フィルは上手くなったんですよ!今の名古屋フィル⁉「カネもらってもいきません。