ダニエル・バレンボイム チャイコフスキー ピアノ協奏曲 第1番 Op.23

 1991年、ダニエル・バレンボイムがセルジュ・チェリビダッケ、ミュンヒェン・フィルハーモニー管弦楽団と共演したチャイコフスキー、ピアノ協奏曲、第1番を聴く。

 第1楽章の華麗な序奏部は聴きもの。バレンボイムはこれ見よがしにしていない。主部はゆったり目とはいえ、ウクライナの大地を思わせる。チャイコフスキーはウクライナ、ダヴィトフ家に嫁入りした妹、アレクサンドラのもとをよく訪れていた。ダヴィドフ家の子どもたちのために「こどものためのアルバム」Op.39を残している。子どものための作品集として、シューマン、ユーゲント・アルバム、Op.68をはじめプロコフィエフ、カバレフスキー、ハチャトゥリアン、ショスタコーヴィッチが名作を残している。子どものための作品を見ると、ロシアの作曲家たちが目立つ。社会主義国家の音楽の在り方もあるだろう。本題に戻ると、ウクライナの匂いが感じられる。ロシア軍によるウクライナ侵攻が進む今、この協奏曲を聴きながら、バレンボイムが取り組む、音楽による中東和平の道を感じ取る。チェリビダッケも素晴らしいサポートを見せる。バレンボイムもチャイコフスキーの音楽を大切にしながら、音楽を進める。  

 第2楽章。ここにもウクライナの匂いが感じられる。ウクライナではヴラディーミル・ホロヴィッツ、エミール・ギレリスといった素晴らしいピアニストたちが生まれ、世界中の人々の感動を誘った。今でも、アレンサンドル・ガブリリュクなどの逸材が輩出している。旧ソヴィエト時代、ギレリスはモスクワ音楽院で後進育成に当たり、ヴァレリー・アファナシエフのような鬼才も出ている。さて、バレンボイムのピアノを聴くと、これ見よがしな面が感じられず、自然と音楽を流している。チェリビダッケもさすがである。

 第3楽章。バレンボイム、チェリビダッケが素晴らしい共演を繰り広げている。どちらも自然に音楽を流している。ウクライナ舞曲に基づくもので、民族色豊かである。

 この作品を書き上げた時、チャイコフスキーがよき理解者だったニコライ・ルビンシテインに批評を請うと酷評され、ハンス・フォン・ビューローが初演した。ビューローはヴァーグナー派からブラームス派になる。当初、チャイコフスキーはブラームスの音楽への嫌悪感があった。ハンブルクで交響曲第5番、Op.64が演奏された折、ブラームスも聴きに来て、評価してくれたことに喜んでいた。ブラームスもチャイコフスキーの音楽に好感を覚えたことは大きいだろう。ロシア音楽ではムソルグスキーは民族派、チャイコフスキーは国際派と言われる。チャイコフスキーは国際派と言われながら、ロシア人であることを意識し続け、ジレンマに悩んだかもしれない。その意味でも、ロシア社会とチャイコフスキーについて考える必要があるだろう。

 

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コメント: 2
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    admin (木曜日, 21 4月 2022 05:46)

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  • #2

    admin (木曜日, 21 4月 2022 05:48)

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