伊藤玲阿奈 「宇宙の音楽」を聴く

 福岡県出身、アメリカ留学中に音楽家の道を志し、ジュリアード・マネス両音楽院の夜間過程で学び、アーロン・コープランド音楽院で修士号を取得後、アメリカで指揮者として活躍中の伊藤玲阿奈が西洋のギリシア・ローマ思想、キリスト教思想中心の文化から、東洋の老荘思想・インド思想へと回帰する中で見出した新しい自分の姿から、「宇宙の音楽とは何か」を問いかけつつ、自己を振り返っている。

 伊藤は、アメリカで詐欺事件に遭い、全てを失う羽目になった時、東洋の老荘思想・インド思想に出会い、西洋のギリシア・ローマ思想、キリスト教思想から生ずる成功・失敗の感覚から自己を捨て、自然に身をゆだねるようになり、柔軟になった。近代西洋の力を認めつつも、神と一体化する東洋思想の強固さも認めている。宇宙の音楽の根源を問いかけつつ、自己の音楽家の人生に向き合っている。

 ギリシア・ローマ思想に始まり、スコラ学・ルネッサンス・宗教改革・近代思想・現代思想に至る西洋、老荘思想・インド思想に代表される東洋思想と向き合いつつ、音楽家としての自己を語った好著である。音楽家としては遅咲きとはいえ、思想と向き合いつつ、自己を確立した音楽家の人生から、多くのことを得ることができるだろう。

 

(光文社 1000円+税)