松本隆の訳詞によるシューベルトの歌曲

 テレビ朝日「題名のない音楽会21」で、松本隆の訳詞によるシューベルトの歌曲、遺作となった「白鳥の歌」D.957からハインリッヒ・ハイネによる「海辺にて」、「ドッペルゲンガー」、ザイドルによる「鳩の使い」を取り上げた。ソプラノ、森麻季、テノール、鈴木准の歌唱から聴くと、ハイネ、ザイドルの詩のエッセンスはむろん、シューベルトの本質が伝わって来た。

 森、鈴木の歌唱を聴いても、自然に歌い上げていた。この方が聴き手にもわかりやすいし、原語(ドイツ語)歌唱よりも日本人の心に伝わってくる。かつての日本語訳は門馬直衛、堀内敬三などが中心で、訳詞による歌唱でもわかりにくさ、歌いづらさがあった。松本の訳にはわかりやすさ、歌いやすさがある。

 松本はロックバンド、はっぴいえんどでの自作自演による作詞経験から作詞家になり、日本のポップス界に多くの詩を提供してきた。歌いやすさ、わかりやすさ。それがクラシックの歌曲の訳詞にも息づいている。門馬、堀内の訳詞は歌いやすさ、わかりやすさには欠けた面もあっただろう。松本の訳詞のように、わかりやすさ、歌いやすさがあれば、声楽曲も聴き手が増えるだろう。

 松本がポップスの世界から、クラシック音楽の訳詞に新風をもたらしたことは大きい。門馬、堀内のような歌いにくく、わかりにくい訳詞は、今の私たちからすれば古臭さばかりが目立つだけだろうか。