ヴィルヘルム・ケンプ ヘンリック・シェリング ピエール・フルニエ ベートーヴェン ピアノ3重奏曲 第8番 WoO.39 第9番 WoO.38 第10番 Op.44「創作主題による14の変奏曲」 第11番 Op.121a「カカドゥ変奏曲」

 ヴィルヘルム・ケンプ、ヘンリック・シェリング、ピエール・フルニエによるベートーヴェン、ピアノ3重奏曲全集も終わりに近づいてきた。作品番号なしの2曲、変奏曲2曲である。

 第8番、WoO.39は単楽章とはいえ、味わい深い1曲。当時、真剣に結婚を考えたことがあるアントーニエ・フォン・ブレンターノ男爵夫人の娘、マクシミリアーネのために作曲したもので、ベートーヴェン自身による指使いもある。ケンプ、シェリング、フルニエの親密な会話が伝わる。

 第9番、WoO.38はベートーヴェンがヴィーンに移る前、ボン時代最後の時期に当たる。楽譜はアントン・フェリックス・シンドラーの所有で、第8番と共にフランクフルト・アム・マインのドゥンスト社から出版された。第1楽章は大変のびやか、かつ歌に満ちている。第2楽章はスケルツォ。こちらも歌に満ちた楽章。後のベートーヴェンのスケルツォの抒情的な部分を暗示するかのようである。ピアノ・ソナタではキャラクターピースとしてのスケルツォを追及するようになる。ブラームスは、ベートーヴェンのスケルツォ楽章も丹念に研究していた可能性を伺わせる。ブラームスのスケルツォの中には、ベート―ヴェンの影響が顕著に見られる。その意味でも、ベートーヴェンのスケルツォは重要である。第3楽章もスケールが大きいとはいえ、歌が溢れている。3人が音楽の喜びを味わいつつ演奏している。

 第10番、Op.44は自作の主題による変奏曲。主題が3つの楽器のユニゾンで始まる。ピアノ独奏のみの変奏、ヴァイオリン中心の変奏、チェロのみの変奏、それぞれの特性を生かしている。ピアノとヴァイオリン、チェロとの掛け合いによる変奏にも楽器間の対等な関係を築こうとするベートーヴェンの姿がある。短調の第7変奏、第13変奏の深みある歌も素晴らしい。第14変奏での晴れやかさ、コーダでのハ短調のアンダンテの部分からプレスト、6小節での終結部に至る手法が見事である。名人の手になる素晴らしい演奏である。

 第11番、Op.121aはヴェンツェル・ミュラーのジングシュピール「プラハの姉妹たち」の「仕立て屋カカドゥ」の主題による変奏曲で、ト短調、アダージョ・アッサイによる重々しい序奏に始まる。ベートーヴェンは変奏曲とはいえ、音楽としての深みを追及していたふしがある。カカドゥの主題が始まり、10の変奏曲が展開する。ピアノ独奏による変奏、ヴァイオリンとチェロのみの変奏もある。ヴァイオリン中心の変奏、チェロ中心の変奏もある。第9変奏では序奏の深身に戻るとはいえ、深々とした歌が見事である。第10変奏はプレストの晴れやかさとと短調の部分とのコントラストが緊迫感ある音楽になっている。コーダはアレグレットとなり、行進曲風となり、主題を回想して、堂々と曲を閉じる。ベートーヴェンは楽器の独立性・可能性も生かした変奏を作曲するにあたり、ピアノ3重奏曲、弦楽4重奏曲、チェロ・ソナタ作曲に活用している。その意味でも2曲の変奏曲は重要である。ここでも名人の味が感じられる。

 ケンプ、シェリング、フルニエの名人ならではの味、音楽の深さ、歌心がベートーヴェンの音楽全体にしみわたり、素晴らしい全集として完成度の高いものになっている。ベートーヴェン生誕250年記念の今でも立派に通用する内容となっている上、今こそ聴くべき全集である。