カール・ベーム シューベルト 交響曲第7番 D.759「未完成」

 カール・ベームの重要な遺産の一つはシューベルト交響曲全集である。1963年~1971年の8年間をかけ、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮したもので、優れた演奏である。もっとも、ヴィーン・フィルハーモニー管弦楽団とは1975年の来日公演のものがあり、ドレースデン・シュターツカペレとのライヴもある。

 この「未完成」は全集の一つである。1823年、シューベルトはシュタイヤ―マルク音楽協会名誉会員に選ばれた折、創作中の交響曲を送ることとなり、友人ヨーゼフ・ヒュッテンブレンナーに2楽章まで出来上がったこの作品を送った。シューベルトは4楽章構成を考えたものの、第3楽章は僅か8小節のスコア、スケッチしか残っていない。こうした事情からすると、シューベルトは最初の2楽章だけで十分と感じて筆を止めた可能性が高い。

 第1楽章の暗い序奏、第1主題の悲しみに満ちた歌、第2主題の心に染み入る歌、序奏を中心とした展開部のドラマトゥルギー。ベームはシューベルトのロマン主義を正面から受け止め、じっくりと歌いあげている。1975年、ヴィーン・フィルハーモニー管弦楽団との演奏もヴィーンの響きの中にシューベルトの音楽をしっかりと歌いあげていた。

 第2楽章。じっくりと歌いあげる第1主題。悲しみに満ちながらも、しみじみと情感たっぷりに歌う第2主題。その後には激しい悲しみ。それを慰めるかのような旋律が現れ、第1主題、第2主題、激しい部分からコーダで静かに終わっていく。ここでもベームはじっくり、心から歌いあげている。1975年の演奏も素晴らしい。

 ベームは1975年、1977年、ヴィーン・フィルハーモニー管弦楽団と共に来日して、当時の日本の聴衆を沸かせた。1980年、ヴィーン国立歌劇場との来日が最後となって、1981年、87歳の誕生日を迎える2週間前にこの世を去った時、感慨深いものがある。素晴らしい「未完成」を耳にしたことは今でも忘れずに残っている。