マーク・パドモア、ティル・フェルナー シューベルト「冬の旅」

 イギリスのテノール、マーク・パドモア、ヴィーン生れのピアニスト、ティル・フェルナーが昨年のシューマン・プログラムに続くリーダー・アーベントとして、シューベルト「冬の旅」D.911を取り上げた。(22日 浜離宮朝日ホール)

 恋に破れた若者が雪深い冬の夜、旅に出る。その中でよき思い出を回想しつつも、凍り付き、雪深い冬の地を彷徨い、死を求めつつも死にきれない。遂に、村はずれの辻音楽師に遭遇し、自分の歌に合わせてライアーを回してくれないかと呼びかける。ここには、1820年代、ヨーロッパを平和の名のもとに絶対主義の中、自由思想を弾圧し続けたメッテルニヒ体制への絶望感が漂っている。ベートーヴェンですら、晩年の大作「ミサ・ソレムニス」の中にメッテルニヒ体制への反旗をにじませていた。シューベルトの周囲を見ると、友人シュヴィント、ラッハナーがミュンヒェンに去り、成功をおさめていく。

 パドモアは若者の感情に潛む絶望感を、当時のメッテルニヒ体制への絶望感としても捉え、生々しく感情を伝えた。第15曲「からす」が迫真の響きで、聴くものに感銘を与え、「死にたくても死に切れぬ思い」を託していた。それが第24曲「辻音楽師」へと結実していく。フェルナーもパトモアの歌唱に応え、シューベルトが描きだした絶望感を見事に表出していた。

 パドモアとフェルナーによるリーダー・アーベント、次回はどんなプログラムで私たちを魅了するだろうか。楽しみになって来た。