レナード・バーンスタイン マーラー 交響曲第8番「千人の交響曲」

 マーラーを得意としたレナード・バーンスタイン(1918-1990)がヴィーン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮した交響曲第8番「千人の交響曲」はマーガレット・プライス、ジュディス・ブレゲン、ゲルティ・ツォィマー、トゥルデリーゼ・シュミット、アグネス・バルツァ、ケネス・リーデル、ヘルマン・プライ、ホセ・ヴァン・ダム、ヴィーン国立歌劇場合唱団、ヴィーン楽友協会合唱団、ヴィーン少年合唱団といったソリスト、合唱、オルガンのルドルフ・ショルツによる壮麗、かつ深遠な演奏である。

 バーンスタインはニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団を指揮した全集もある。こちらはヨーロッパに広く客演していった時期のもので、円熟味が加わっている。もっとも、バーンスタイン自身、ロシア系ユダヤ人の移民の家に生まれたこともあって、マーラーには親近感があった。マーラー自身、交響曲9曲を完成、第10番を未完のままこの世を去っている。また、マーラーがニューヨーク・フィルハーモニーの常任指揮者も務めたこともあり、マーラー演奏への自負があっただろう。

 マーラーがこの作品に取り組んでいた時期、妻アルマが建築家ヴァルター・グロピウスと恋愛関係に陥り、結婚生活最大の危機となっていた。もっとも、アルマが才能ある作曲家だったことがマーラーにとってかえって不都合だったためか、作曲活動を禁じた。マーラーはアルマを「篭の中の鳥」にして、自己の演奏・創作活動にのめり込んだためか、かえってアルマを精神的に追い詰め、精神障害に追いやることともなった。そのため、アルマがかえって男性遍歴に走り、グロピウスとの恋愛に至った時、自らの罪を悟ることとなる。結婚生活も円滑なものではなかった。2人の娘が生まれても、長女を失っている。ようやく、自らの非を悟ったマーラーとアルマがわかり合える夫婦となろうとした矢先、マーラーは病に倒れることとなった。

 第1部は「創造主なる御霊よ」をテクストとして、ローマ・カトリック信者としてのマーラーの信仰告白となっている。ショルツのオルガンも全体を引き立てている。

 第2部はゲーテ「ファウスト」第2部、終幕の場、悪魔メフィストフェレスから救われたファウストの魂が神父、天使、子どもたち、サマリアの女、エジプトの女、罪の女、グレートヒェン、聖母マリアにより浄化されていく。ここの部分は、シューマン「ファウストからの情景」第3部で取り上げている。山峡の情景の描写、神父たち、ファウストの救いを歌う天使たち、浄化されたファウスト、女たちが救われた喜びを歌う。

 マーラーは浄化されたファウスト、神父たち、天使たち、女たちの救いの喜びを壮大、かつ壮麗に描きだす。シューマンは神秘的な雰囲気を漂わせつつ、抒情的に描きだす。両者の「ファウスト」の比較研究が出てきてもいいだろう。