高橋アキのシューベルト ソナタ D.784, D.845

 高橋アキは作曲家、ピアニスト高橋悠治の妹。現代音楽の旗手の一人が2007年からシューベルトのピアノ・ソナタに取り組んでいるという。ここでは2つのイ短調ソナタ、D.784, D.845を取り上げた。

 D.784。暗い、情念に満ちた第1楽章に始まり、展開部は怒涛のような動きになり、スケールの大きさを感じさせる。シューベルトの歌心、抒情性も豊かである。コーダは盛り上がりを見せても靜かに閉じていく。第2楽章の素晴らしい歌はつかの間の安らぎがある。第3楽章は不気味な動きに始まり、次第に高揚していく。ドラマトゥルギーも見事で、抒情的な歌に満ちた対句によるロンド形式で、コントラストも見事である。コーダは力強く締めくくる。

 D.845。第1楽章。ここでも暗い情念が中心的で、力強く発展する。シューベルトのソナタへの自信が垣間見られる。第1主題中心に左手に歌わせたり、カノンを用いて深い内容の楽章にしている。第1主題が全体の中心となり、展開していることが明白である。力強いコーダで全曲を閉じる。第2楽章。主題と5つの変奏。シューベルトの歌が広がり、見事な変奏が繰り広げられていく。第3楽章。ベートーヴェン風のスケルツォで、トリオはシューベルト風な歌に満ちている。主部とのコントラストが素晴らしく、緊迫感に満ちている。第4楽章。無窮動風のロンド形式で、推進力が見事である。抒情性も豊かで、迫力に満ち、力強く締めくくる。

 シューベルトの音楽に潜む暗さ、情念。高橋がこの2曲を並べた意図が見えてくる。D.845に至ると、シューベルトの自信が漲っている。この面から見ると力強さ、音楽面での円熟ぶりがはっきりする。その意味でも大きな意義があろう。